「私のハートはストップモーション」桑江知子(1979年)

山城新伍の時代」というのが、よくも悪くもあったのだ、ある一時期。今で言うみのもんたぐらいのポジションと言ったらいいだろうか。
そしてそんな彼のあれやこれやがもっとも端的に発揮されていたのが、日曜のお昼にやっていた歌番組「笑アップ歌謡大作戦」だったのだ。
当時の歌番組がすべてそうであったように、この番組も「歌謡」というジャンルの中に、アイドル歌謡も演歌もムード歌謡も、とにかく何もかもぶちこんでいた。
私は子供であったため、できることならチャラチャラしたアイドルの皆さんだけを見られる、そんな番組を作ってくれたらいいのになと思いつつ、母親が大喜びで見ている「笑アップ」(またこれで「ショーアップ」と読ませるいかにもなセンスも、子供の私には汚らわしく思えた)を釈然としない気持ちで見ていたものだった。
たとえて言うなら、たくあんとか筑前煮(五木ひろし北島三郎)はどうでもよいから、ポッキーチョコレートやフルーツポンチ(百恵ちゃんやキャンディーズ)だけ毎日食べていられたらなあ……という、それはもうお子さま丸出しな夢であったわけだが、最近の歌番組が完全にその状態になってしまったのを見るにつけ、何だこれ、実現してみると随分つまらないものなんだなーということに気づかされるのだ。
多少退屈でも、「世の中にはこんな世界もあるのだ」となかば強引に色んなジャンルの存在を知るというのは、実はお子さまの情操教育には結構重要だったのではあるまいか。
今でも思い出す。「笑アップ」にデビューしたての桑江知子がはじめて登場した日、山城新伍はこの上なく嬉しそうに彼女を見て、

「ふうん、桑江知子ちゃん。くわえともこちゃん。
 ……一体、何をくわえているのかな」

と、いきなり言い放ったのだ。
繰り返すが「笑アップ」は、日曜の、それもお昼の番組である。しかしかと言ってそれが特に問題になるわけでもなかったのは、当時の山城新伍のいわばクラス感でもあり、時代でもあったのだろう。


そして子供はこのテのことを実に克明に覚えているのであなどれないなと、おどれを振り返ってつくづく思うのだ。